
米コンサルティング企業 Bain & Company が、「Agentic AI(エージェント型AI)」によってSaaS市場が大きく変わる可能性についてレポートを公開しました。
従来の生成AIは「質問に答える」「文章を作る」ことが中心でしたが、Agentic AIはその先――
“自律的に判断して、複数の作業を実行するAI” を指します。
例えば、
- メール内容を読み取る
- ERPやCRMからデータを取得する
- 条件を判断する
- 承認フローを進める
- 必要なら人間にエスカレーションする
…といった一連の業務を、AIが“作業者”として動く世界です。
Agentic AIは「SaaSを破壊する」のか?
結論から言うと、Bain & Company の見解は少し意外です。
多くの人は、
「AIエージェントが普及すると、SaaSは不要になるのでは?」
と考えています。
しかしBainは、
「SaaSが消えるというより、“SaaS同士をつなぐ人間の作業”がAIに置き換わる」
と分析しています。
これまで自動化できなかった“人間の調整作業”
企業では今でも、多くの業務が「人力」でつながっています。
たとえば経理部門では、
- ERPからデータを取得
- Excelと照合
- メール内容を確認
- 問題があれば上司へ確認
- 承認処理を行う
といった流れが普通に存在します。
この「システム間の橋渡し」をしているのは、人間です。
従来のRPAでは、ルールが曖昧だったり例外対応が必要な場面に弱く、完全自動化が難しいケースも多くありました。
しかしAgentic AIは、
- 自然言語を理解
- 状況判断
- 複数ツールの連携
- 柔軟な例外対応
が可能になりつつあり、“人間のオペレーション部分”に入り込めると期待されています。
Bain予測:「1000億ドル市場」になる可能性
Bainの調査では、この“AIによる業務調整レイヤー”だけで、
米国市場で約1000億ドル規模
になる可能性があるとされています。
つまり、AIが既存SaaSを全部置き換えるというより、
- Salesforce
- SAP
- Workday
- ServiceNow
など既存システムを横断して動く「AIワーカー層」が巨大市場になる、という見立てです。
SaaS企業は「座席課金モデル」を維持できなくなる?
ここはかなり重要なポイントです。
従来のSaaSは、
- ユーザー数
- アカウント数
- 月額ライセンス
で収益化していました。
しかしAIエージェントが実務を代行するようになると、
「人間が何人ログインしたか」
の価値が下がっていきます。
そのためBainは、
SaaS企業は“ログイン課金”から“成果課金”へ移行する必要がある
と指摘しています。
例えば、
- 処理件数ベース
- 削減工数ベース
- 成約数ベース
などへ移行していく可能性があります。
今後強くなる企業の特徴
Bainは、AI時代に強いSaaS企業の条件として以下を挙げています。
1. 独自データを持っている
AIモデル自体はコモディティ化しやすいため、差別化は「データ」に移ります。
特に、
- 長年蓄積した業務データ
- 顧客行動データ
- 業界特化ルール
を持つ企業は強いとされています。
2. 業界ルール・規制に強い
金融、医療、保険などは、
単純なチャットAIだけでは代替しにくい分野です。
コンプライアンスや監査対応を含むSaaSは、依然として優位性を持つと考えられています。
3. AIを“追加機能”ではなく“中核”にできる
単なる「AI搭載」では不十分で、
- AI前提のUX
- AIによる自律実行
- AIエージェント同士の連携
まで設計できる企業が勝つと見られています。
一方で、懐疑的な声もある
ただし、現時点では「Agentic AI hype(過熱)」を指摘する声も少なくありません。
Redditなどでは、
- AIの判断精度がまだ不安定
- 顧客対応は結局人間が重要
- “Agentic”を名乗るだけの製品も多い
といった意見も出ています。
実際、Gartner系の議論では、
「本当にAgentic AIと言える企業はごく一部」という指摘もあります。
つまり現在は、
“革命の始まり”ではあるが、まだ成熟市場ではない
という見方が現実的かもしれません。
まとめ
今回のBainレポートで重要なのは、
「AIがSaaSを消す」ではなく
「AIが“人間の操作レイヤー”を置き換える」
という視点です。
これは、今後のIT業界を考えるうえでかなり大きな変化です。
特に日本企業では、
- Excel転記
- メール確認
- 承認フロー
- システム間コピペ
のような“人力運用”がまだ大量に残っています。
Agentic AIは、まさにそこを狙っています。
数年後には、
「人がSaaSを操作する」のではなく、
“AIエージェントがSaaSを操作し、人間は監督する”
という構図が当たり前になっているかもしれません。
参考リンク
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